初夏を思わせる陽気と思いきや、朝晩の冷え込み。目まぐるしい気温の変化に体調もくるいがちな今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
今回は雌犬に多く発生する乳腺の腫瘍(癌)についてお話致します。
乳腺腫瘍は未避妊の雌犬で最も多く認められる腫瘍で、雌犬全体の腫瘍の約 50 %を占めるほどです。またその発生率は人の約 3 倍とも言われています。腫瘍の約半分は悪性(再発したり転移したりする)で、そのうちの数十パーセントが診察時にすでに転移している可能性があります。 猫の場合はそのほとんどが悪性腫瘍です。避妊している雌犬でも発生する可能性はあり注意が必要ですが、その発生率は約 1/7 に減少します。また雄犬でも 1 %未満の確立ですが、発生する可能性があります。
乳腺腫瘍の発生平均年齢は 10 歳前後で、 6 歳以下の若齢で発生する場合はある研究によれば良性腫瘍の可能性が高く、年齢が高くなればなるほど悪性腫瘍の可能性が高まるという報告があります。また過去に良性の腫瘍であっても、再発したものは悪性の可能性が高くなる傾向があります。
「交配をしなかったから」または「子犬を産ませなかったから乳腺腫瘍になった」といわれる飼い主がいますが、交配や妊娠の有無は腫瘍の発生とは関係がありません。ただし性ホルモンは雌犬の乳腺腫瘍の発生に関与していることが報告されています。婦人科系の病気の予防に雌犬の避妊手術が勧められる理由がここにあります。
1 〜 2 歳で避妊手術をすると腫瘍発生の予防になることが報告されています。高齢で実施する避妊手術は予防効果はあまり期待できません。
乳腺腫瘍の発見には触診が第一です。すくなくとも中年期を過ぎたら、月に一回は愛犬の乳腺を触って腫瘤の有無を確認すべきです。犬の乳腺は左右一対・乳頭は頭側から第一乳頭〜第五乳頭(中には第四までしかない場合もあります)の左右計 10 の乳頭が存在します。
腫瘍は乳頭近くに発生することが多いため、これらの乳頭付近をよく触診する必要があります。特に第一乳頭とその乳腺は腋の下の奥深くまで入り込んでいるので、前肢の腋まで注意深く検査します。臨床的には第五乳頭付近に発生する可能性が多い印象があります。乳腺に発生する腫瘤の大きさはよく触らなければわからない数 mm サイズのものから肉眼で確認できる数 cm のものまで様々で、また数も孤立性のものから多発性のものまで様々です。腫瘤の大きさや数は悪性度には関係しません。
発情後にいわゆる偽妊娠を起こし乳腺が張っている場合には、乳腺の一部が過形成を起こしてしこりをつくることもありますので、この場合は乳腺の腫れがひくまで 1 ヶ月ほど様子をみます。多くの場合は自然にそのしこりは無くなるはずです。
炎症性乳癌 :炎症性乳癌は犬の乳腺腫瘍全体の 10 %以下に発生する乳腺に激しい疼痛と炎症を伴う悪性の乳腺腫瘍です。発生報告では高齢の大型犬種に多いといわれていますが、小型犬種でもその発生は認められます。炎症性乳癌は乳腺に熱感・腫脹を伴い、一見すると乳腺炎のようにもみえます。乳腺全域にわたる浮腫みや疼痛は、癌細胞が乳腺深くに浸潤し、乳腺や皮膚のリンパ管・リンパ節に入りこみ生じています。また化膿性皮膚炎を併発する場合も多々認められます。このように癌細胞が様々な領域に散在しているため、初診時にすでに肺転移を起こしていることも珍しくありません。予後は非常に悪く、手術をしても命を落す可能性が高い腫瘍です。
治療は外科手術が第一選択となります。前述しました通り、乳腺は頭〜尾側まで存在していますので、現在腫瘤ができている部位だけ摘出するのは危険と言えます。なぜなら、その部位を中心に頭側もしくは尾側にすでに腫瘍が転移している可能性があるからです。ただしそれは触診だけでは解らないことがほとんどです。それを踏まえてできるだけ大きく乳腺を摘出することになりますが、やみ雲に大きく切除するというのも飼い主さんとしては納得がいかないかもしれません。
現在できている腫瘤がここ 1 〜 2 ヶ月で急激に大きくなったり、他の部位にもできたり,腫瘤の一部が崩れていたり,見るからに悪性の所見が認められたりする場合には、飼い主の意向も考慮しながら片側の乳腺をできるだけ大きく切除する手術(片側乳腺拡大切除術)を実施します。化学療法(抗がん剤治療)に関しては、切除した部位の病理検査に基づき、再発や転移の可能性がある症例に対して考慮されます。
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